未熟な恋人
椅子に腰かけている私と目線を合わせるようにひざまずいた暁は、私の頬を伝う涙を手の甲で拭いながら、苦笑した。
せっかくの衣装が汚れてしまったらだめなのに、とどこか冷静な心が教えてくれるけれど。
うまく言葉にできなくて、ただ暁を見つめていると、その瞳の奥からは、見間違う事ないあからさまな私への愛情が見える。
暁と再会してからずっと、たびたび訪れる感情の波に振り回されて、自分の未来を前向きに考えられなかった私を、こうして結婚する気持ちになるほどまでに掬い上げてくれた愛しい人。
暁は、結婚式当日になっても尚、涙を流す私に呆れた顔も見せず、強い視線を落とすと、低くてはっきりとした口調で。
「なあ、伊織。今この瞬間に、これから一生、俺に愛されて幸せになる覚悟を決めろ。腹をくくれ。
伊織はこれまで十分苦しんだし後悔も反省もしてる。
俺だって、伊織を苦しませた事に、後悔ばかりだったけど、それは、お前を幸せにしてやることで償うし、そうする事が俺の幸せだから。
俺に愛されて縛られて、身動きがとれないくらいに幸せになるんだ。
もちろん、一生だ」
力強い言葉を私に落とすと、ドレスを気にしながらも、私の肩に頭をこつんとのせて、軽く抱き寄せてくれた。
私の耳元に寄せた唇からは、慣れているとはいえ甘すぎる温度が注がれて、どうにかなりそうだ。
そして、かすめるように唇が触れて、『安心して愛されろ』と伝えてくれた。
「私、笑って、幸せになっても、いいのかな……いいんだよね」
ぐすぐすと涙交じりに呟いた私の背中を何度も撫でては頷く暁は、『もちろん』と私だけに聞こえるような小さく甘い声でささやいた。