未熟な恋人
暁と離れて生きる時間は、私に孤独と後悔だけしか感じさせない長い時間だった。
そんな私と偶然に再会して、もう一度一緒に生きていく選択肢が与えられて。
迷う事なく私の手をとってくれた暁は、何年もの間、苦しんできた私の心をゆっくりと溶かしてくれた。
生きる希望も見出せなくて、暁と一緒にいた過去にすがって生きるだけの日々は、私の世界から温度と感情と色を失くした。
そんな私を、もう一度愛してくれた暁だって後悔と苦しみを抱えながら生きてきたはずなのに、自分が背負う荷物に加えて私という重荷も背負ってくれて、自分の悲しさは後回しにしてくれた。
高校生だったあの頃よりも、ずっと大人に成長した暁は、私との奇跡の再会を予期していたかのように、ごく自然に私と暮らし始めて、私の失ったものたちを取り戻してくれた。
温度、感情、色。
そして、少しずつよみがえってきたのは、幸せという穏やかな想いだ。
そして、願うのは。
私が幸せになったと同じくらいに。
「暁も、幸せになってね」
涙をこらえて、それだけをようやく言った私に、暁はふっと笑って。
「伊織が思う存分俺を幸せにしてくれ」
部屋にいる友達の視線を気にする事なく、額と額を合わせて、幸せの呪文をかけてくれた。
再び流れ始める涙を伊織が唇で吸い取ってくれる。
ああ、まさか、こうして、二人で幸せになれる日がくるなんて、思いもしなかった。
私達が重ねた悲しい日々を思えば、今日の日は奇跡の日だ。
まさか、こんな日を迎えられるなんて、本当に夢のようだ。
そう。私達が離れ離れになって、それぞれに自分の人生を立て直して、再会の奇跡を信じるしかなかった日々を思えば、今この瞬間は夢のようだ。
あの日、偶然暁と再会した日を思い返すと、今でも体が震えて、一気に体温も上がる気がする。
そう、再会したあの日。