未熟な恋人
* * *
あの日。
仕事帰りの私は、普段よく利用する大型書店へと足を向けた。
特に買いたい本があるわけでもなかったけれど、良さそうな新刊があればいいな、と軽い気持ちで途中下車して立ち寄った。
市内では一番の品ぞろえだろうはずのその書店は、週末だという事も手伝って混み合っていた。
あまりの混み具合に、店頭で足を止めた。
今日はこのまま帰ろうかと逡巡していると、近くにあったワゴンが気になった。
店頭に置かれたそのワゴンには、大量の本が平積みされていて目をひく。
どんな本だろうと、平積みされている、本を一冊手に取った。
その瞬間、鼓動がとくんと跳ねて、脈も一気に加速するのを感じて。
それはどうしようもないくらいに激しかった。
手に取ったその本は、まさしく私が高校生の頃に何度も読んでいた小説のリバイバル本。
それに気付いた途端にどきどきして、どうしようもない。
私が大切に何度も読み返していた当時の本の表紙と違って、色合いや字体も変わっているけれど、本が置かれているワゴンの正面に飾られている紹介文の中の作家名は、間違いなく彼女だ。
「懐かしい……」
思わずつぶやいて、壊れ物を触るように丁寧に、表紙を指で撫でた。
高校生の頃、この女流作家が大好きで、全ての本を読破していた。
バイト代が入る度に書店に通って買っていた小説たち。
今でも私の部屋の書棚に整然と並んでいる。
どちらかというと、切なく涙する内容が多いその小説たちは、私の生活を彩るに足りる大きな存在で、青春時代真っ盛り、多感だった当時の私のバイブルでもあった。