未熟な恋人
「今頃どうしてリバイバル本が出るんだろう。何か受賞したのかな」
小さく呟きながら、表紙に見入っていた。
視線は本の表紙に向いているけれど、気持ちは過去に向けられていて、高校時代の青い日々へと思いがさかのぼっていくようだ。
当時、新刊が出る度に、誰もが買いに走るというわけではなく、そして決して大人気作家というわけではなかった作家さん。
けれど、知る人ぞ知る、根強く幅広いファンからの絶大な支持のもと活動していた。
私と暁もそんなファンの一人だった。
当時発表されていた、彼女の多くの作品は、爽やかな読後感というよりは、どこか胸の中に小さな黒く後ろ向きな感情を残してしまうような、簡単には心の中に折り合いがつけられない結末が多かった。
フィクションともノンフィクションとも言い難い、曖昧な世界は、現実にありそうでありえない、読者によって受け止め方も各々違う話が多くて、それでいて前向きに頑張ろうなんて決して思えない話。
そんな、世間に対して消極的な作風が受けて、ファンの数は密かに多かったと思う。
私も、彼女の新作が出る度に、次の新作を心待ちにしていた。
どんな人が書いているのか、色々想像したけれど、わからないままで、出版社からも何も公表されていなかった。
プロフィールを非公開にしていた彼女は、性別だけを公開して、ひっそりと作家活動を続けていて、新作がいつ出るのかも、なかなか情報が入らなくてじれったい思いもした。
そして、私が高校を卒業した頃に発表された作品を最後に、文壇からは遠ざかっていたはずなのに。
それなのに、どうして今頃、リバイバル本が刊行されているんだろう。