未熟な恋人
ワゴンに積まれているのは彼女が発表した多くの作品の中で、代表作ともいえる作品と、その作品のスピンオフとでもいうべき作品が二冊。
合わせて三種類の本が、書店の入り口の一番目立つ場所に平積みされている。
売り上げに貢献できるような人気作が、こんな目立つ場所に積まれると思うけれど、高校生のあの頃に、この作家さんの本がこうまで全面にどんと積まれた記憶はない。
今になって、ようやく世間一般に認知されて、人気が出たのかと考えてみた。
そして、ワゴンの前面に貼られている書店の店員さんが書いたであろう紹介文を読んでみると。
その内容に驚いて、思わず体が固まった。
『昨年、惜しまれつつ亡くなった彼女の代表作……』
私が大好きだったこの作家さんは、去年、既に、亡くなっていた。
私の意識の全てが持っていかれたようになった。
高校時代、暁と私の傍らに置かれていた思い出の小説。
二人で感想を語り合って激しく言い争った事もあったし、同じページで涙した事もある、思い出の作家さん。
その彼女がすでに亡くなっていたと知らされて、暁ともう二度と会えないんじゃないかと、なんの脈絡もなくそう感じて、胸が痛くなった。
相変わらずとくとくと激しくうつ鼓動の音しか聞こえないし、足元はどこかに沈んでいくような不安定さ。
ふらふらとした気持ちを抱えて、呆然とその場に立ち尽くしたままで紹介文をただ見ていると。
「え……ウソだろ」
私の頭上から悲しげな声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声に、はっと見上げると、どこか懐かしい目が、私が読んでいた紹介文をたどっていた。
切なく、傷ついたような真剣な目をして。