未熟な恋人
* * *
神田暁。
私の高校時代の恋人。
結婚の約束もしていた大切な人。
高校時代、長身でスタイルの良かった彼は、抜群の成績にも後押しされて、校内での人気は相当なものだった。
少しきつい印象を与える切れ長の目元と、形のいい唇も目を引いて、女の子からの告白は日常茶飯事だった。
告白をしないにしても、彼とすれ違う女の子からの意識された視線はいつも彼をとらえていた。
それほどの人気があったけれど、、高校一年の頃から私と付き合っていた彼は、他の女の子に気持ちを揺らす事もなく、私だけを大切に愛してくれた。
私以上に魅力的な女の子はたくさんいたけれど、それでも私だけに気持ちを注いでくれた。
そんな一途なところも、彼の魅力を引き立てる要因だったけれど。
そして、女の子からもてる事を自慢するわけでもなく、かといって自分に好意を持ってくれた女の子に対して軽いあしらいをすることもなかった彼は、同性異性問わず、敵を作る事もなく穏やかな日々を過ごしていた。
もちろん、素行の良さと成績の優秀さゆえに、先生たちからの評判も良くて、私から見れば無敵の男だった。
どう見ても平凡で、とりたてて人に自慢できるものを持たない私には、手の届かない、遠い存在の男。
それが暁だった。
そんな彼と私が付き合うきっかけとなったのは、本だった。