5センチ
その小さな願いが届いたのか、ゆっくりとあなたは目を開けて、眼鏡の奥の優しい瞳を私に向けた。


「あぁ、寝てた··」

「···はい」

「まだ、寝ていい?10分後に起こしてくれる――?」


私が少しだけ距離を置いて横に座るのを見て、あなたはまたゆっくりと目を閉じた。




―――10分間




私が、距離を縮められるのはその瞳が長い睫毛で伏せられている、その10分間だけ。


そっとあなたの前髪をよけて黒い眼鏡を外してみる。

この前気が付いた、右目には小さな泣きぼくろ。

片手を枕にして、もう片方は胸の上。

私は、骨が浮き出た手の甲にふわりと自分の手を重ねてみる。




そして、ゆっくりとあなたの唇を指で触れる。
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