一章 若い男①
地面に打ちつける水の音が聞え、時より車のタイヤがコンクリートの地面の水を弾き飛ばしながら走り抜ける音が聞える。
 
 外は雨が降っているらしい。
 

 どのくらい雨が降っているのだろうか。いつ止むのだろうか。別にそのことを知るのは困難ではない。
 
 上半身だけ起き上がらせれば窓から外の様子はわかるし、天気予報を見たければ、自分の寝ている右横の円形のテレビスイッチに少し右手を押せば良い事である。
 
 しかし、今の俺にはその簡単すぎる両方ともの行動を行う気力もなかった。
 
 記憶が無い。


見事なまでに。新宿駅西口を少し歩いた所にある、長細いビルの三階か、四階かの居酒屋に入った所まではしっかりとした記憶がある。
< 1 / 46 >

この作品をシェア

pagetop