三章 若い男②
「ねえ。ねえ」  

誰かが俺の肩を揺すっている。

「ほら、早く起きなさいよ」  

この大人びて落ち着いた声。俺は横か後ろで肩を揺すっているのが山本沙織だとわかった。

「何だよ。沙織」  

俺は机を顔に付けたまま、うっとうしいことをアピールしようと唸り声と共に言葉を発した。

「大事な話があるの。それより正也は、どうしてここで寝そべっているの?学校中探したんだから」

「フッ」と息を吐いて沙織が後ろの席に座った音がした。

「は?何しているって、講義が始まるまで寝ていようとしていただけだ」

「講義?どの講義?もうこの教室でも講義はやらないと思うけど」  

沙織がなぜか突っ張った口調で言う。まるで俺が沙織のことをちゃかしていると勘違いしているかのように。

「なに怒っているんだよ。わけわかんねえなあ。今何時?」  


そう俺が訊くと、後ろからカチッと、携帯電話を開いた音がした。
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