「ホテルで」  

沙織は相変わらず口だけ動かし、俺を瞬きもせずに見つめていた。

「は?ホテル?誰と?」  

全く記憶のない俺は、記憶を辿ると同時に自分がもしも寝るとしたら沙織意外だと誰がいるのか模索した。

「さとみ」

「さとみ?」  

沙織から出た女性の名前に、俺は見覚えがなかった。

「黒田さとみ」  

フルネームで沙織が付け加えるように言うと、やっと名前と顔が一致した。

「ああ、黒田さんね。あの一年生の。そういえばいた気がするなあ。昨日の飲みに。え?あの子と俺が寝た?ありえねえよ。顔は知っているけど、話したことなんかないし」

「惚けないで。飲み会に行った人に聞いたんだけど、正也とさとみが仲良く手をつないで帰っていったって言っていたし、本人にも訊いたわ。昨日正也と寝たの?って。そしたらあの子、恐る恐るだけど頷いたわ」  

沙織は目を細め、歯を出さずに微笑んだ。

「え、で、でもさあ。みんなが俺が昨日の記憶がほとんど無いことを知っていて、俺をはめようとしているのかもしれないぜ」

 ドン 沙織は無表情の顔に戻り、両手で机を思いっきり叩いた。
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