「たとえ仮に周りにいた人は嘘をついていたとしても、さとみのあのオドオドとした顔を見れば、本当だったんだってわかるわよ」

 沙織の声のボリュームこそ変わらなかったが、その声のト音は何か怒鳴られるよりも責めたてられる感じを受ける声であった。

「でも、それは沙織の感覚かもしれないだろ?黒田さんが演技しているかも」

「うるさい!そういう誰かのせいにして自分の否を認めない男ってウザイいんだよね。もう、別れましょ。話はそれだけ。じゃあね」
 
 沙織は立ち上がり、教室の出口に向かって歩き始めた

「おい!ちょっと待てよ!」
 

 俺は叫んで沙織の足を何とか止まらせようとするが、沙織の足は止まることはなく、教室を出て姿を消していった。
 

 あまりに突然の出来事であった。今の俺は嵐の後の瓦礫の山になってしまった家のように、何があったかわけもわからず強制的に全て壊された気分だった。
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