新宿駅は終電近くにもかかわらず、家路に着く人々でプラットホームは混み合っていた。
 
 こんなに遅くまで仕事が残ってしまったのは久しぶりだった。私はギリギリ、次の乗り換え電車の終電に間に合う電車に飛び乗ることができた。
 

 車内はオシクラマンジュウ状態であった。誰かが誰かの身体を押し、誰かが誰かに押されるようなことで、何も捕まらなくともその場に立っていられるような。きっと日本人なら一生に一度は経験するものであろう。
 

 山手線は目白を過ぎて池袋に停車した。ドアが開くと、我先、我先にと降りようとする。

 私はその人の大波に飲まれるように池袋のホームに弾き出され、その波がなくなるのをドアの隅で待ち、そしてまた車内に乗り込んだ。
 
 今度は我先に我先にと乗車しようとする人の大波に押され、私の身体は限界まで押し潰された。
 
 やっとドアが閉まり電車が動き出す。

さっきとあまり変わりない状態の車内で私はふと周りを見渡した時、ある女性に目が止まる。
 
 特別美人という顔立ちではなかったが、顔の肌が色白で、円らな目だがその黒い瞳は人を威圧するような強さを感じさせる、流行にとらわれないジーパンに黒のティーシャツを着た、細身の小柄な女性である。
 
 私は女性に会った事はないはずなのだが、どこかで会っている妙な感じに襲われる。必死に女性を見つめるが思い出せない。しかし、私の目が女性の隣にいる男を見た時、女性が誰であるかわかった。というより、わかってしまったの表現が正しいかもしれない。
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