六章 中年の男③
目が覚めて、しばらく息があがり胸の鼓動が止まらなかった。ここまで不快で恐怖を感じさせる夢を見たのは初めてだった。

私は起き上がって、水道の蛇口を捻りコップに水を注いでそれを飲んだ。おかしい。おかしすぎる。どうして何度もあの男の夢を見るんだ。        

もはやこれは偶然などではない。何か意味があるに違いない。だが、私はどうすれば良いのかわからない。私にできることはただこうして、
頭を抱え悩むことだけしかできない。

私はシンクにコップを置き、その場にしゃがみ込んだ。そしてシンクの銀色の淵に頭を思いっきりぶつけた。

何度も何度も。あの夢を忘れたいがために。

しかしあの夢の記憶が消えることはなく、増してや忘れようとすればするほど夢の1シーン1シーンが、心にめり込ませるようにプレイバックするだけであった。

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