電話は引っ切り無しにかかって来るが、上の空の接客しか出来ずに電話の向こうのお客からは何度も怒鳴りつけられていた。

私は電話の受話器を置き、頭を抱える。あの夢のお陰で自分の生活リズムが完全に乱されている。

さあどうすればいい。どうすればいいんだ。そういえば飲み会の次の日、テレビの卓上カレンダーを見て恋人の誕生日と言っていた日にちが、今日より二日後の日にちであった。と言う事は、もしあの夢が真実の出来事、しかも今より未来の出来事を私に見せているのならば、あれは上山の言うと通り「予知夢」なのかもしれない。

そうだと推定するのならば、あの男の人生の転落ぶりからして今日行われる飲み会に私が行って、辞めさせた方が良いに決まっている。良いどころか、あのような事態に陥ることをわかっているのならば、絶対に行かせてはならないのではないか。

しかし、相手はどう考えても面識もない最近の若い男である。果たして私が赤の他人にそこまで肩入れする必要はあるのだろうか。どう考えてもその筋合いはない。はっきり言ってしまえば、あの男が警察に捕まろうとどうなってしまおうと、私の知った事ではない。

そう、知った事ではない。

そうだ。知った事ではない。

別にあの男を助けたからといって何もならならないし、助けなくとも別に私の人生に支障はないし

私の中にある理性の心も負い目を持つことにはならないだろう。
 

私はまた受話器を取った。私は仕事に集中する事にした。あの夢、あの男のことなどどうでもいい。そう自分に言い聞かせて。知った事ではないのだから。
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