夢
　毎日通勤で通っているのにもかかわらず、新宿の街に降りたのは何年かぶりだった。
結局あの男のことを忘れることはできなかった。

私は仕事を早く切り上げて、あの男を探すことにした。もしかしたら見つからないかもしれない。


しかし、私は変なムラ騒ぎと言うべきか何か妙な感覚に襲われるのだ。言葉では説明は難しいのだが、他人事ではない気がしてならないのである。それはある意味、碌な大学生活を送ってこなかった私が、あの男の人生が変わってしまうかもしれないことに同情しているのかもしれない。

とにかく、今は時間がなかった。あの男が酒を口にして記憶を失う前に止めなくてはならない。

新宿西口を出て歩道橋を渡り、ヨドバシカメラを横切り数分歩いた細長いビルの三階か四階の飲み屋。私は夢の中の曖昧な記憶を辿りながら道を埋め尽くすような人混みを歩いた。

私は数分さまよい歩くと、記憶にあった同じようなねずみ色の細いビルの真下に着いた。

一階はラーメン屋になっており、立っているだけでラーメンの匂いが嫌と言うほど匂ってきた。

それにしても、見事と言っていいほどに夢の中で男が見たビルと同じであった。勿論、私はこのビルに入ったことはないし、この付近を歩いた記憶もない。

本当にこれは現実に起こったことかもしれない。
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