さあ、これからどうする。ビルを出た私は行き交う人々を見ながら考える。これからはあの男の記憶が全くない。

しかし、さとみという後輩と一緒にどこかに行ったのは事実らしい。

もし私が夢で見た明日の出来事が正しければ、二人は夜を共にしたと沙織は言っていた。ということは今ごろホテルの部屋にいるのだろうか。

しかし、何処のホテルかわからない。だいいち、この時刻ならばまだホテルには入らず、街をふらついているのかもしれない。

そう考えると、いる可能性のある範囲が膨大すぎる。私は途方にくれた。

それでも私は新宿中のホテルを回り、行き交う人々を一人一人慎重に見渡しながらこの新宿の街を歩き続けた。必ず見つけださなくてはならないという妙な正義感に刈られながら。

だが、どのホテルにも二人の姿はなく行き交う人々にも姿はなかった。見つからないまま時間は経ち、終電が迫っていった。

やはり私には無理だったのか。いや私には何も責任はない。たかが夢だ。これがたとえ予知夢であっても、あの男に助けを求められたわけではない。明日はまた仕事なのだからもう帰ったほうがいい。

私はそうやって自分自身に呼びかけ、後悔の残っていたが無理やり納得させて山手線に乗り込み、昨日と同じ終電真際に最寄りの駅に着いた。

「何もない。何もなかった」

私は独り言を呟きながら、俯きかげんに家路を歩いた。
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