しばらく方放心状態の後、俺は徐々に自分が置かれている状況を把握し、飲み会の後の記憶も不思議と戻ってきた。
 
まず、俺は横山誠ではない。自分がずっと「夢」だと信じていたこの小林正也が現実の自分で、現実だと思っていたあの横山という男が実は俺が見た夢であった。
 
あの晩、飲み会で恋人から突き放されているという話題から意気投合した俺と黒田さとみは、飲み会を早く抜け出し二人きりで寂しさの傷を舐め合おうと俺の部屋に誘った。
 
しかし、俺は寝ている途中で嫌になってしまい、俺は車で黒田を家まで送り届けた。
そして送り届けた帰り道である。飲み会で飲んだ酒がまだ回っていたのか、頭がうまく働かないまま運転して・・・・・・人をひき殺してしまった。
 
そのひき殺した人物が横山誠であった。

俺は認めたくなかった。この現実を。人殺しであるという自分を。

しかし、今自分が立ち尽くしている数メートル先には血を流し、倒れている男がいる。

いつの間にか俺は、この本当の現実から逃避するために俺の頭は無意識に飲み会で飲んだ酒のせいで記憶を失ったと思いこませ、そしてその日アパートに帰り眠りについた時に、なぜか死ぬ数日前に生きる横山誠の夢を見始め、俺はそれを現実の自分だと信じるようになっていた。

それがボロボロに壊れかけている俺の心を修正する、唯一の方法だったのかもしれない。

しかし、あの男の夢が終わりを告げたとき、俺は魔法から解けたかのように現実に引き戻された。

これからどうなるのだろう。ああ、まだ整理がつかない。いっそ、あのまま横山誠の夢が現実の自分で、今生きている現実の自分が夢であったらよかったのに。

これまでの苦しみを味わうのなら加害者より被害者の方がましだ。
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