光の旅人
夜、宴が始まりました。

クザさんをお父さんに紹介しました。どうやら気が合うみたいで、しばらく楽しそうに話していました。

みんな幸せそうに歌い、語り合っています。よほど私たちの旅に興味があるようで、旅人の1人を3、4人の村民が囲んで、旅の話を聞いている、という光景がちらほら見受けられます。

クザさんは、この平和で幸せな光景を見ることができないんだなあ、と思うと、少し悲しくなりましたが、すぐにそんな考えは消え去りました。




彼は、絵を描いていました。鉛筆で、小さなノートに。

見えているわけがありません。

しかし、筆はすらすらと動いています。迷いなんて無く、ただ進んでいきます。

私は見守っていました。お父さんと目が合って、微笑みかけてきたので、私も微笑みました。




クザさんは、クザさんのあの目は、一体どんな世界を映し出しているのでしょうか。


オーロラの光がかかったような、明るい世界があるのでしょうか


今、オーロラの下でみんなが歌い、語り合っているような世界が。




クザさんが筆を降ろしました。

「ユリ、近くにいるんだろう?おいで。」

私はそっと、彼の隣に腰を降ろしました。

「…よし。ユリ、この絵は選別だ。受け取ってくれ。鉛筆だけのスケッチ画だけど。」

先ほどまで彼が描いていた絵を受け取りました。そこには、今のこの宴の様子が、描かれていました。


正確に、です。この人は長老、ちょうどこの集落の長と乾杯をしているところです。この人は、昔よく私の面倒を見てくれたおじさん、この人は…



「すごい…でもどうやって…」

「声が聞こえるんだ。心の声っていうのかな。聞いてるとね、その人が今どんな気分なのか、どういう人なのか、だんだん分かってくる。不思議と、顔とか姿も浮かんでくるんだよ。
その絵の真ん中、見てごらん。」



言われた場所には、私がいました。
みんなと楽しそうに笑っている私が描かれていました。

今の私にできないこと、でも私が一番望んでいることを、絵の中の私はやっていました。

「ユリ、君に何があったかは知らないし、聞くつもりもない。

だけど、君はとっても強くて、賢くて、優しい人だ。君の声を聞けば分かる。

今の境遇や、環境が自分にとってつらいものだったら、自分が変わるしかないんだ。それがすごく難しい。大半の人は、すぐ諦めてしまう。

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