光の旅人
その時僕は、まだヴォーカルをやりたいって思ってた。どのバーも歌い手を募集してたし、自分の実力に見合ったお金がもらえる。僕は、その時までは自分の歌に自信があった。だから、どの飲み屋に行ってもやっていけるだろうって思ってた。


歌い手を探している所はたくさんあったけど、僕を必要としているところは一つもなかった。どこもみんな、僕を一目見てすぐ門前払いにした。



僕はその時、自分の境遇を呪った。そして同時に、負けたんだ。


安い給料で、朝から晩までこき使われ、休みもろくにもらえないのを覚悟で、汚いレストランで給仕の仕事をもらった。それも、必死に探してだ。



カリムはまだ、街の人々のあの目を知らない。冷たくて、暗くて、突き刺さるようなあの目を。
知らなくちゃいけないことだけど


でも、何で知らなくちゃいけないのだろうか。



僕らは何も悪くないのに。
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