光の旅人
一抹の不安と不満を覚える。

見るからに人の良さそうなこの医者も、僕を見る時はあの目をしていた。

冷たく、暗い、まるで今日の海のような目を。

患者であるあの少年にも、医者であるこの男はあんな目をしていたのではないだろうか。医者でさえも、あんな目をするのか。


あの少年は、街で、その冷たい視線の海の中で、息ができなくなっていたのだろうか。



医者が帰ってから、僕は院長に尋ねた。
「ねぇクロードさん、この少年は一体…」



「街の繁華街の隅っこにいたんだよ。私が見つけたときには、もうあの状態だった。
誰がやったかは分からないが…きっと酔っ払いか何かに暴行を受けたんだろう。

まったく…ひどいことをするものだ。」


手当てを手伝っている時に目に入った。体のほとんどの部位に、なぐられたようなあざと擦り傷があり、右肩と左太腿には、あれは…刃物で切りつけられた傷だ。あの有り様から見て、たぶん何人もの人に囲まれて、ひどいことをされたのだろう。


「ほんとに…何てひどい…」

あぁ、怖かったろうに。

凍えてしまって、声なんか出せなかったろう。

寒かっただろう、そこは。




「この子…どうするんですか?…またあ街へ返してしまうんですか…?」


傷が治ったらまた街へ帰ってしまうのだろうか。この子が悪いわけではないのに、好奇と軽蔑の目にさらされて、気温よりももっと寒いその空気の中で、また生きていくのだろうか。



救いたいと思った。

これは、ただの同情なのだろうか。


それにしては、すごく湿っていて

泥臭くて、暖かい気がした。




院長が、ゆっくりとこっちを見て、言った。その時の彼の目と言葉は、今でも心に刻んである。

「そんなわけないだろう。

今この子に必要なのは、温かいスープとベットの他にないじゃないか。」



凛としたその言葉は、雪のように僕の心に降り注いで、むき出しのささくれ立った地面を


優しい白で、覆い尽くした。
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