卓上彼氏
振り返ると、藤堂くんが自転車をひきながらこちらへ歩み寄ってきていた。
私のすぐ目の前まで来ると、藤堂くんはこう言った。
「あのさ…………………………………………最後に一回だけ『一馬』って言ってくんね?」
「………………………」
やけに時がゆっくり流れているように感じた。
「何それ………マザコン?」
「はっ?!ちげーよ!!なんでそうなんだよもういーよ!!今の忘れろ!!じゃーな!」
ガタガタと荒々しく自転車に乗り去っていこうとする藤堂くんの背中に私はこう呼び掛けた。
「じゃーね一馬!!」
その自転車の少年は一瞬キュッと止まった後、チリンチリンと二度ベルを鳴らして去っていった。
藤堂くんのいなくなったその場所で、なんとも表現しようのない不思議な感覚だけが私を取り巻いていた。