卓上彼氏
「あの……どうして動けるの?」
まずは根本的な質問から。
「わからない」
はい終了。
わからないと言われたらその先はない。
本人がわかっていないなんて。
「突然目覚めたんだ。そしたら目の前にみかみが寝てた。暇だからとりあえず君のことを知ろうと思ってケータイに飛んでみた」
そう言って彼は長めの前髪をいじった。
ハァ、いちいち動作も美しすぎてため息が出る。
というか、勝手に人の個人情報調べるな!!一般人だったら捕まってるぞ!
「なんだろう、偶然絵に魂が宿った、ってとこかな。詳しいことはわかんない、記憶も無いし……あ、俺の名前は?!調べたけど出てこなかったよ」
それはそうだ。
だってまだ私は彼の名前をパソコンに入力していないから。
昨日は本当に外見だけ完成させただけで、詳しい設定はまだだった。
年齢も性格も物語のストーリーも。
「名前…決定じゃないけどなんとなくなら考えてたかな……翼って書いて『ヨク』」
「ヨク!いい名前じゃん。じゃあ今日から俺はヨクで」
本当に嬉しそうにヨクはニコニコするから、私までつられて微笑んでしまった。
「ねぇ、みかみって三次元の男子に興味無いんでしょ?」
「!」
突然核心を突かれてびっくりした。
「な…どうして知って……」
「だから、電子機器の中は自由に動けるんだ、って。みかみのブログに二次元にしかときめかないって書いてあったよ」
は、恥ずかしい…あれも読んだのか。
「いろいろ悩んでるみたいだね~。ホント、なんで俺ら二次元って世間から否定されるんだろうね」
「アニメってだけで、マンガってだけで気持ち悪いなんて間違いだよ……」
思わずつぶやいた。
「こんなにも素敵な世界なのにね!みかみだって全然普通の女の子なのに。あ、普通より可愛いかぁ」
…なにこのチャラ男。
可愛いなんて簡単にサラッと言うんだから。
今出会ったばかりで、しかも二次元で、かっこいいけどわけわかんないのに、私の今の気持ちをわかってくれている気がした。
ヲタクの一面を持った私を今まで誰も普通だなんて言ってくれなかった……。
ヨクの眼差しに安心して、ポロリと小さな雫が落ちた。