卓上彼氏
クリスマスは君と。
クリスマスには、雪が降った。
私と藤堂くんは、たくさんのカップルに混ざってタワーを見上げていた。
なんだか変な気分だ。
午後六時五十分。
ライトアップまであと十分。
隣でタワーを見上げる藤堂くんの息は白かった。
私はかじかんだ手を藤堂くんに気づかれないようにはーっと温めた。
なぜわざわざ隠れて温めたかというと、変に見せつけたくなかったからだ。
漫画やドラマで寒そうにわざと男性の前で手を温め、心配して握ってもらうというシーンがあるが、私はそんなこと恥ずかしくて絶対にできないと思ったからだ。
しかし、藤堂くんは気づいてしまった。
「寒いんならここ入れとけよ」
彼は私の手首を掴むと自分の上着のポケットの中に私の手を入れた。
自分の手も、私の手首を握ったまま。
その強引さに身体が硬直する。
ドキドキしすぎて、なんて返したら良いかわからなかった。
夕方暗くなってくる前くらいまでは普通にいつもみたいにふざけあっていたのに、街のライトがつきだしたとたん本当に『デート』みたいな雰囲気になってきた。
私は結局、あれからヨクと藤堂くん、どちらかを一人選ぶなんてできず、どっち付かずの生活を送っていた。
正直言うと、藤堂くんとカップルみたいにしている今この瞬間だって、まだヨクへの思いを胸に抱えている。
自分でも笑ってしまう程の、優柔不断な悪女だと思った。
「あ、あかり…そろそろだね」
この妙な沈黙を破ろうと、私はマフラーに顔をうずめて言った。
何か思い詰めたように真剣な藤堂くんの顔を、直視できなかった。
「だな」
彼はそう短く答えると、また上の方を見上げた。