卓上彼氏

午後七時。




ついに点灯！！……そう思ったら、予想外のことが起こった。




予定ではクリスマスツリー風のイルミネーションだと聞いていたのに、タワーはピンク色に輝いた。




さらに、一面にハートマークが映し出されている。


まるでバレンタインキャンペーンのようだ。






「え……なんで………」




藤堂くんもさすがにびっくりしたらしく、唖然としていた。





「きゃー！ハート可愛い！」



気がつくとあたりのカップルはその甘い雰囲気に飲まれて寄り添っていた。





どどどどうしよう、完全に私達浮いてるよっ…！




私は頭のなかでは物凄くあたふたしていたけれど、そこは藤堂くんに悟られぬよう必死で平然を装った。




藤堂くんはというと、鈍感な私にもわかりやすすぎるほど顔を真っ赤にしていた。




それを見てさらに私も緊張する。


心なしか、私の手首を掴む力が強まったように感じた。




この沈黙の状態が異様に長く感じられて、心臓がバクバクして破裂してしまいそうだった。




────このイルミネーション、わざと私達のためにやってるみたい……………。






そう思ったとき、私ははっとした。





ヨクだ。





直感だったけれど、そうだと確信した。





ヨクが私に、
『幸せになって』
と言っている。




ヨクは私に、藤堂くんを選ぶように言っている。





だから、ヨクの力でイルミネーションを替えたんだ。



これが、ヨクからのメッセージなんだ。




………………ヨク、私の藤堂くんへのキモチ、気づいてたんだね。



『切ない』なんて言葉じゃ言い表わせない程に私の胸は締め付けられた。




ヨク────…ヨク───……、………ごめん、私、藤堂くんのことが好き。



そして────ありがとう。





私の決着のつかない決断も、やっぱり解決してくれたのはヨクだった。



私は、ヨクにいっぱい助けられて、支えられてきたんだ。




じわり、と私の目には涙が滲んだ。





「あのさぁ！」




突然藤堂くんが切り出したことに、なんとなく私は覚悟した。






一度下を向いてからばっと顔を上げ、藤堂くんはまっすぐ私を見つめた。





「…えっ……ちょ、花園泣いてる？！どうした？？」




「あ、これは……あくびしただけだからっ」



「………俺といるのそんなつまんない？」




「ち、違うよ、昨日の寝不足がたたっただけだから」




あぁ、なんかややこしいことになってきたっ！




彼は、飼い主を心配する子犬のような目をしながら私の平気を確認すると、深く息を吸ってからこう言った。







「俺花園が好きだ」







その瞬間、私の中で何かが弾けたような音がした。





ヨクという彼氏のいる身で何だと思われるかもしれないが、もしも自分に正直になっていいなら、すごくすごく嬉しかった。






抑えていたものがこみ上げてきて、それが涙となって溢れ出す。





私も、藤堂くんが好き。





藤堂くんへの思いを認めたことでの安堵から、涙が止まらなかった。





今まで押し込めてきた感情が、一気に溢れ出たような。







ヨクが『もういいよ』、そんな風に言ってくれている気がした。









「嬉しい……すっごく嬉しい……！！」





「花園…」




「………私も…………藤堂くんが好き…………………！」






笑いながら泣きじゃくる私を藤堂くんは抱きしめた。




息が苦しいくらい、ギュッと。





「焦ったーっ…。ダメだと思ってた」



彼は私の頭を二度撫でると、私の身体を引き離してからこう言った。






「俺とつきあって下さい！！」




「……はい！！」






そのあとのことは頭がぼやぼやしてよく覚えていない。




それもそのはず、だって藤堂くんにキスされたんだから。





気がついたら藤堂くんの顔が近くにあって、それが段々近づいてきて、私が目を閉じた瞬間、彼の唇が重なった。




本当に好きな人と実際にキスをするのは初めてだったから、一瞬その感覚にビクリとして離れそうになったが、藤堂くんに肩を掴まれてさらに強く唇を押しあてられた。





そんなことがあったものだから、そのあとどんな会話したとか、どうやって帰ったかなんてぶっ飛んでしまった。