卓上彼氏
突然涙した私を見て、ヨクはなだめるようにこう言った。
「じゃあさ、今日から俺が彼氏になってあげる」
「へ?!」
突拍子もない提案に、涙もすっかり止まってしまった。
「みかみの気持ちわかってあげられるの、俺くらいだろ?彼氏にぴったりじゃん」
ヨクは自信あり気にピースした。
「はぁ…」
呆然とする私をよそにヨクは続けた。
「二次元にしかときめかない、ってことは、俺はオッケーでしょ?プログラミングされてる恋愛シュミレーションゲームよりかは現実に近い恋愛できると思うよ」
「……」
私が返事を出来ないでいるのを見ると、
「だって俺の顔、みかみの好みなんだろ?」
とヨクは色っぽく笑った。
「た…確かにそうだけど………」
すでにこんなにドキドキしてるんだもん、もう恋してるも同然。
「でっ、でも彼氏っていったってヨクはこっから出てこれないじゃん、
それじゃあんまり恋人っぽくないよ」
私はディスプレイに手のひらを押し当てた。
その私の手に、ヨクも手のひらを合わせてくる。
その手は私よりずっと大きく、男らしかった。
パソコンの機械熱だろうに、なんだか人体の温もりが手のひらに伝わってくるようだ。
「俺がいろいろ移動すればいい。ケータイの画面とかさ。それなら24時間一緒だよ」
そういうとヨクはいきなりディスプレイから消えた。
「えっ?」
すると、操作してもいないのにデスク上にあったスマートフォンの画面が真っ白に切り替わり、ヨクが現れた。
「…!すごいっ!!」
私は自分の目が信じられなかった。
この時代にこんな技術……魔法としか思えない!
「三次元にみかみが恋できるまで、彼氏やるよ」
—————二次元の彼氏なら、本当に好きになれるかもしれない。
彼氏彼女ってどういうものなのか、わかるかもしれない。
「————…よろしくお願いします!」
私がぺこりとお辞儀をしたこの瞬間、私たちは恋人同士になった。
「じゃー…まずはじめにね…」
え?
ドキン。
何を言われるのかと期待したとき。
「みかみ学校遅刻だよ」
私は一気に現実に引き戻された。