卓上彼氏
それからは何事もなく時間は過ぎていき、藤堂くんとも接触することなく放課後になった。
良かった、ホントに何もなくて。
私は安堵のため息を漏らすと、誰もいなくなった教室の窓から身をのりだした。
寒過ぎないくらいの心地よく冷たい風が私の前髪を揺らした。
すっかり気が抜けてしまって、そのまま机に座り込んでしまった。
はぁーっ、このあとの部活だるいなぁ…。
「みかみって可愛いけどみかみの友達も可愛いんだね~!」
突然ストラップで首からさげたスマホから声がした。
『俺もみかみと一緒の景色が見たいから、ケータイポケットとかにしまわないで首からさげてよ』
というヨクの要望に応え、このような状態になっている。
画面が内側になってしまっても、スマホのカメラが目の代わりになるからどちらの面が外側になっても平気らしい。
「ふぅん、だったら他のコの彼氏になってあげたら??」
タッチパネルからヨクのほっぺたをつねる。
「怒んなって」
「怒ってないし!」
なんでこんなにムカムカしてんだろ私。
これが恋愛でいう嫉妬…って気持ちなのかな…?
いやいやいや早い早い。
今朝出会ったばっかじゃん。
「安心してよ、いつだってみかみ一筋だから」
そんな私の思考を遮るようにヨクの声が響いた。
憎らしい程の整った顔でヨクは私に笑いかける。
「よ、よくそんなこと言えるね、今朝会ったばっかなのに」
ヨクの魅力にドキドキしながらも、悟られないように口を尖らせた。
「照れてるの?可愛い」
あ~~もう!!////
私はもう完全にこの二次元男子に振り回されていた。
すっかりヨクのペースだ。
「彼氏だから、だよ」
突然、ヨクが口を開いた。
「彼氏だからこそ言えるんだよ」
「……あぁ、さっきの返事ね」
ヨクはつけ足した。
『彼氏だから』、かぁ。
「甘い言葉掛けるのは彼氏の仕事だってこと?」
「え、そういうもんじゃないの?」
ケロッとした顔でヨクは聞き返してくる。
「なるほど、事務的に、ってことね」
感情はこもってないってわけか。
そのあとは、しばらくヨクの返事は無かった。