卓上彼氏
「お疲れ様でしたぁー!」
時刻は午後7時をまわり、私たち一年生は先に部室へあがる先輩方に挨拶をした。
女バレでは、一年生が練習の後片付けをすると決まっている。
私は床に転がったバレーボールを集めて倉庫へ向かった。
――――……あぁ、確か昨日ここであんなことがあったんだ。
なんだか藤堂くんとの会話がずいぶん昔のことに思えた。
それはきっと、今日一日が何事もなく終わったからだ。
「よしっ、さっさと片付けて帰ろ~!」
ネットをしまったりボールを集めたりしている仲間に呼び掛けた。
「なーんかみかみ機嫌良いね!」
ネットを片手に、同じ一年生のチームメイトがやってきた。
「?そうかな」
「ホラ、だっていつもなら『疲れた~めんどくさ~い帰りた~い』って言ってるじゃん」
「印象悪っ!ってか今日別にいつも通りだけど?」
「ううん、絶対良いことあったでしょ……………彼氏できた?」
どきっ。
「ちっ、違うから!!」
できたはできたでもあれは二次元だし……。
「うっそ~?怪し~!!どうせ彼氏がみかみのこと裏門で待ってるんでしょ?!」
「別に誰も待ってなんか………あ」
部屋のパソコンのディスプレイで待っているヨクの姿が浮かんで、『あ』なんて言ってしまった。
「あ~~~~っ!思い当たるふしあるんだ~~~~っ!!このリア充がっ!!」
「え?!何なにみかみ彼氏できたの?!」
「他校?!」
たちまち部員がわっと集まってきてしまった。
「だから違うって~!」
「え?みかみ彼氏待ってんの?じゃあ今日だけ先あがっていいよ」
ついには二年生の先輩まで勘違いし始めた。
なぜかそのまま流れにおされ、部活を先にあがらせてもらうという事態になってしまった。
「お幸せにぃ~~☆」
「もうっ、違うからね?!」
意味ありげな笑みを浮かべて手を振る仲間たちに私は荒々しく手を振り返してやった。
でも、家で私のことを待ってくれている人がいると思うと、足取りは不思議と軽くなった。