卓上彼氏
私が部屋に入ると、もうパソコンの画面がついていた。
「おかえりみかみっ!!」
待ちきれなかったようにヨクは声を張り上げた。
「た…ただいま」
――――『ただいま』なんて、最後に言ったのはいつだっただろう。
久しぶりすぎて、なんだか言うのが照れくさく思えた。
家に帰ってきたときにすでに明かりが点いているなんてこともずいぶん無かった気がする。
「―――――ただいま。」
噛みしめるように、もう一度呟いた。
大きなパソコンの液晶画面に近寄ると、その画面に映ったヨクの異変に私は気づいた。
「あれ……ヨク、メガネかけてたっけ?!」
何か雰囲気が違うと思っていたら、その原因は目元の銀縁メガネだった。
「仕事してたからね。どう?似合いますでしょうか、ご主人様」
ヨクは中指で銀フレームの中央を押し上げた。
「ちょっと、何がご主人様だっ、からかうなっ///」
ヨクがメガネかけると、本当に執事みたいだ。
知的な雰囲気に思わずうっとりしてしまった。
カリカリカリカリ。
ヨクはなにやら机に向かって制作しているようだった。
ディスプレイの中の世界って机もあるんだ。
その高性能さに感心した。
「何してるの?仕事ってなに?」
机に向かっているヨクの綺麗な横顔に話しかける。男らしい顎のラインに目を奪われた。
「漫画描いてる」
「マンガ?!」
意外すぎる回答に驚いた。
「なっ、なんで?!」
「みかみの代わりに描いてるんだ。オーディションに出すためのマンガ」
「あ……」
―――すっかり忘れてた、そういえばマンガ描かなきゃいけなかったんだ。
「ブログに『オーディション頑張る』って描いてあったのに、マンガ描いてる形跡無かったから忘れてるんじゃないかと思って」
そうだった、藤堂くんとのことがあって落ち込んで、そのあとヨクに出会って忙しくて頭からすっかり抜けていた。
「ありがとうヨク!」
『まーね』とでも言うかと思ったら、意外にも可愛らしくヨクは照れ笑いをした。