卓上彼氏


「――――これって……」




私は目を見張った。





そこに描かれていた登場人物は、紛れもなくヨクと私だった。





「うん、物語の主役はみかみと俺」





漫画の画面が切り替わり、ヨクが現れた。







「あっまだ読みおわってないのに!」





「やっぱ恥ずかしいわ。完成までお預け!」






勢いよくそう言ったあと、



「―――俺とみかみのこれからを、日記みたいに記そうと思って。ノンフィクションっていいだろ?」





と、ヨクは目を細めて笑った。






確かに、ヨクが何か話を考えたらそれはヨクのアイディアであって私の実力じゃない。ストーリーが評価されてオーディションに受かったあかつきにはやりきれない思いでいっぱいになってしまうだろう。





その点でただ事実を記したノンフィクションっていうのは妥当なのかもしれない。





「私のことを気にしなくていいからさ、しばらく描いててよ。どういう風に描くのかみてみたい!」






「えーっ、恥ずかしいって………でも、彼女の頼みならやりますか」





観念した素振りをみせると、ヨクは鉛筆を取った。






カリカリカリカリ。






部屋に、鉛筆が紙をこする音がこだました。







――――…ヨクってホント綺麗な顔してるなぁー……。





もとの絵は私が描いたのだから自画自賛になってしまうが、その絵が動きをもつことによってさらに美化されていた。







私の理想で描いた男性が、今目の前で自我を持って動いているんだ。






私の名前を呼んでくれるんだ。








こんな幸せめったに無い、そう感じていた。









何分間こうしていただろう、ヨクはただ静かに作業を続けて、私はそれを眺める。





言葉には表せない幸福な時間が、そこにはあった。






ゆっくりと、ゆっくりと時間が流れていく。







――――ヨクといると落ち着くなぁ。






私はまるで水族館の水槽を眺めるようにディスプレイに片手を当てた。






私とヨクの間にあるものは、たった一枚の透明なガラスだけのように感じた。






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