卓上彼氏
「さっき充分語り尽くしたからわかると思けど、私今まで好きじゃない人とデートしてたわけだから全然つまんなかったの。相手が私の機嫌とろうとして一方的にベラベラ話すだけで。私は完全にうわの空。だから本当に今日は幸せだったんだよ」
私は長い髪に指を絡ませた。
「………」
ヨクからなんの返事も無いから不思議に思って画面を見ると、彼は目を丸くし、少し赤面していた。
「…それってつまり………みかみの好きな人は俺ってことで捉えていいんだよね…?」
「!」
そうだった。無意識だったけれど私は確かにそのようなことを今言ったのだった。
最初は仮に始めた恋愛だったのに、いつのまにか本当にヨクを好きになってたんだ。
「……うん…私………ヨクが好き」
「……」
「…ちょっと!!私誰かに告白したのは初めてなんだからなんとか言ってよ!!恥ずかしいっ」
「………やべ……すっげ…嬉しい///」
ヨクは顔を真っ赤にして目をぱちぱちしていた。
ヨクの長いまつ毛が揺れた。
「実は俺も……みかみのこと本気で好きだったから……それもずいぶん前から………でもみかみは俺のこと仮の彼氏だとしか思ってないみたいだったからずっとこの先も俺の片思いなんだろーなって思ってた……」
ヨクの素直な言葉に私も赤面する。
「じゃあ…これからは本格的に俺と…」
「ちょっと待った!———…今度は私から言わせて」
しっかりと背筋を伸ばすと深呼吸一つ、私はこう言った。
「私とつきあってください!」
「…もちろん!」
私たちが初めてお互いに通じ合った瞬間だった。
「せっかく両思いだってわかったんだし、キスしよ」
ヨクは思わぬ提案をしてきた。
私たちは丁度私の住んでいるマンションの目の前にいた。
「えっ?ここで?!」
一瞬ためらったけれど、周りに人がいなかったことと、夜の暗さと、ヨクへ溢れる愛情とでしてもいいかなと思った。
「…わかった、じゃあ、するよ…?」
その言葉を合図にヨクは目を閉じる。
私も目を閉じながらスマホを自分の口元に寄せ付け、そしてそっと画面にキスをした。
ディスプレイの硬さはあったけれど、その機械熱がヨクの体温として唇に伝わってくる。
静かなる夜の、長い長いキスだった。