卓上彼氏
「———そういえばみかちゃんは大丈夫だった?外大変だったみたいだね」
「へ?」
お義兄さんに言われて一瞬何のことだかわからなかった。
「さっき、病院近くの道路で信号機の不備があったって、ニュース速報入ってたよ」
「あ…」
「交通事故でけが人が大量に流れ込んでくるんじゃないかって、病院中バタバタしてたからさ。まぁこの様子じゃけが人は出なかったみたいだけど」
すっかり忘れてた、あのこと。
信号機がまるで私を病院へ導くかの様に青へ変わっていった。
あり得ないようなあの現象。
「ちょっとごめんなさい!」
お義兄さんに断りを入れると私は病室を飛び出した。
「ちょっとみか?!みか!!」
後ろから姉の声が追いかける。
私は振り返らずにロビーへ向かった。
ロビーにあるテレビの大画面には、予想通りテレビニュースが流れていた。
それもまさに、あのニュースだった。
『信号機の不具合により、大変な混乱状態となっております!!けが人はいるのでしょうか?!現在けが人の情報は入っておりません!!』
速報の映像の再放送らしかった。
画面右上には『信号機が突然青に?!』なんていう見出しがゴシック体で刻まれている。
リポーターはその後もかなりの早口で解説を続けていた。
でももうそんなの耳に入らない。
大きく映し出された現場の映像だけが、私を捉えていた。
激しく衝突したことを思わせるグチャグチャのボンネット、困惑する歩行者、大量の警察官—————……。
私が通ったあと、こんなことになってたんだ。
もし死者が出ていたらと思うとゾッとした。
画面から目を逸らし、病室に戻ろうと歩き出した。