卓上彼氏
「なんだか……よっと。…藤堂くんのおうち可愛いね!」
自転車から降りながら話しかけた。
「そうかぁ?俺あんまりそーゆーのわかんねーからなぁ」
と、彼は頭を掻いて笑った。
藤堂くんが扉に向かって歩くのに私も続く。
「ち…ちなみに聞くけど妹さんに私が来ること言ってあるんだよね??」
「言ってあるに決まってんじゃん。俺やっぱそんなに信用ならないかなぁ~!」
そう言って藤堂くんはわざと拗ねた態度をとってみせた。
その普段通りの藤堂くんの態度に私の緊張も溶け、いつものように二人で笑った。
と、胸元にさげたスマホが激しく揺れた。
ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ。
「あれ?電話じゃね?」
「あ、そ、そうみたい!ちょっとごめんね」
私はがばっとスマホを掴むと藤堂くんに背を向けて、まるで電話のようにスマホを耳に当てて小声で話した。
「こ、こらっ!ヨク!!!出てきちゃダメじゃん!」
「出てきてないし」
そのヨクの美声は、明らかに拗ねていることを物語っていた。
「た、確かに出てきてはいないけど……」
「…あんまり…仲良さそうにされると俺妬いて死にそー」
ヨクは困ったように笑った。
そんなヤキモチを妬いているヨクにキュンとした。
「大丈夫だから。安心して見てて」
「————わかってる、頑張って、抑えてみる」
「うん、よろしくね!」
そして私がスマホを耳から離そうとした瞬間、
「愛してるよ」
という甘い言葉に続いて
ちゅっ。
なんていう音がしたから思わずスマホを手放してしまった。
「ひゃっ!!」
首からさげてスマホに繋いだストラップのおかげで地面に落下せずに済んだ。
「どうしたぁ?」
「む、虫が……」
なんて適当なことを言ってやり過ごした。