記憶のキロク
 嚥下した紅茶が喉を灼(や)くが、それで、少しはまともな思考を取り戻す事ができた。

「すみません。取り乱してしまって。一番辛いのはご家族なのに……」

「謝る必要はないよ。悪いのはこちらだしね。本当はこんな事を頼めた義理じゃないのかもしれないけど……春風の我がままをできる限り聞いてやって欲しい……いや、違うかな。生きていてよかったと思えるような思い出を作って欲しいんだ」

「ええ、わかりました。できる限りの事はします」

「本当にすまない。それから春風のために悲しんでくれてありがとう」

 深々と頭を下げられた。
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