砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
二の四
 ドンドンッ
 ドンドンッ

 寝室に漂う甘く静かな空気を、派手な音が切り裂いた。

 眠りから強引に起こされた毬が、不安そうに瞳を開けた。

「安倍様っ」

 遠くから聞こえる、悲鳴に似た怒声。


 聞き覚えのある女の声に、龍星はため息をつく。
 が、一向に動く気配のない龍星に毬が口を開く。

「龍、呼ばれているよ。行かないと」

「せっかく毬がここにいるのに?」

 毬はふありと笑い、空気をより一層甘く染める。

「私はずっと居るんでしょう?」

「そうだよ。俺もずっとこうしていたい」

 龍星らしからぬ甘えた発言に、毬がクスクス笑う。

 龍星が見たくてたまらなかった、無邪気に笑う毬がそこにいた。


「だったら私も一緒に行く。それで良い?」

 二人が囁くような会話を楽しんでいる間も、扉を叩く音と龍星を呼ぶ声は大きくなるばかりだ。

 
 龍星は諦めたように息を吐き、起き上がった。


「分かった、俺が行ってくるよ」


 そう言って寝屋を後にした龍星の表情は、いつもの冷静沈着さを取り戻していた。


< 154 / 463 >

この作品をシェア

pagetop