砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
「毬、おいで」

 いつになくおとなしく着物を着替えた毬の手を取り、待たせてあった牛車に乗って御所に向かい、目立たぬように御台の住む棟へと急ぐ。

 厳重な人払いがされているようで、いつも、龍星を見て色めきたつ女房たちもいなかった。

 不気味なほど静まりかえった屋敷。

「また帝の悪ふざけ?」

 以前ここで帝に唇付けされたことのある毬は声を潜めて問う。

「そんなに暇ではないよ。お望みとあらば何時でも続きは出来るけどね」

 背中から聞こえた低めの澄んだ、意地悪な声に毬はあからさまに赤面した。

 うっかり扇子も持たずに振り返る。

 長廊下を帝が独りで歩いてきた。意志の強さを具現化したような太い眉。白い肌、整った顔立ちで不敵な笑みを浮かべている。


 毬は慌てて龍星の背中に隠れる。



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