砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
「ひとまず、左大臣殿の身の危険もなくなったと思われます。
 明日からは念のため護衛を連れて、であれば、お出かけになってもよろしいかと」

「そうかそうか」

 狸はにやりと笑う。

 これで、放っておいても狸が帝の元に直談判に行ってくれることだろう。
 龍星は心の中で、胸をなでおろす。

「それでは私はこれで失礼させていただきます」

「おお、大儀であった」

 龍星は立ち上がったあと、おもむろに口を開いた。

「一つ、聞き忘れたことがございました」

「なんだ?」

 龍星は澄んだ声で続ける。

「毬様が仰いますことに、最近、夢に双子の兄上が出てこられるのだとか」

 途端、狸の顔色が変わった。
 弾かれたかのように、一瞬、表情を無くし、その後あからさまな笑顔を貼り付けた。

「双子の兄、か。
 そのようなことまで申すか、あれは」

「いえ、あまりにも怯えて、ここのところでは床に臥せってらっしゃいますので。
 私が無理矢理に、聞き出したのでございます。
 何でも、姫がご幼少の折り、お亡くなりになったとか」

「安倍殿。
 あれは、遠くに行ってしまったのだ。
 毬には忘れるよう伝えてくれ。
 そして、二度とあれの話はせぬように」

「失礼いたしました」

 龍星は深々と頭を下げ、雅之を連れて左大臣邸を後にした。
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