砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
「左大臣を呪い殺そうとするような奴らを、あなたが命をはってまで庇う価値などあるんでしょうか?」

 明日の天気は晴れでしょうか?と問いかけるような気楽さを孕んだ口調で、龍星が言う。

「私は、あなたの力を決して見くびってはおりません。
 ここは素直に本当のことを話して、自由になってはどうですか?
 もっとも、ここでこのまま野垂れ死にたいと仰るなら喜んでご協力致しますが」

 まるで愛でも囁くような優しい口調で喋りながら、風に吹かれる柳のようにゆるやかな速度で、龍星は道剣へと近づいていく。

 大蛇は場所を動かぬまま、道剣をにらみ続けていた。


 にこり、と、龍星の紅い唇が弧を描く。
 もっとも、扇子に隠されているので道剣には見えないのだが。

 否。扇子がなかったとしても、脳みそを揺さぶられるような緊張感に襲われている道剣がそれに気づけたかどうかははなはだ怪しいものだった。

 がま蛙を思わせるような脂汗が、だらだらと道剣の額やこめかみから滴っている。


 大蛇が、恐ろしく長い舌を伸ばしてべろんと美味しそうにその脂汗を舐める。



「ひぃいいいっ」

 その冷たい舌のねっとりした感覚に、道剣は自分でも気付かぬうちに悲鳴を漏らしていた。
 無意識に声を出したときに生じた、焼かれるような喉の痛みで、それに気付く。
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