砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 毬はゆっくり呼吸する。心を落ち着けないと……。

 そして、心を落ち着けた後、この厳しい眼差しが、この冷たい空気が、彼の見ている世界の一片だというのであれば、少しでも、触れたいと思っている自分に気が付いた。


 怯えている場合じゃない。
 自分が望んだことなのだ。
 もっと知りたい、深く触れたい、と。

 今までひた隠しにしていた『何か』を、欠片だけでも今、披露してくれたのだ。
 自分に出来ることは、誠実に応えるだけ。


「準備が出来るまで、おとなしく待つわ」

 震えは隠せなかったが、真っ直ぐにその、底知れぬ色をのぞかせる瞳を見返してそう告げた。

 刃の先に自ら首を突き出すほどの、並々ならぬ覚悟を持って。


 雅之は真剣勝負を見ている気分に呑まれて、二人のやりとりを黙って見つめるよりほかなかった。

 好きあっているはずの二人が突き付けあう真剣の重みから、目を反らすのは失礼な気がしたのだ。


「でも、準備が出来たら、そして必要なら、私をヨリマシとして使って下さい」

 龍星ならば、自分に何かを憑依させても構わない、と、毬は淡々と告げた。


 感情に任せぬ、理性から導いた答えとして。


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