砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 ふっと、龍星が口元を緩ませた。

 途端に何かが霧散したかのように、空気が和らぐ。

「そこまでの覚悟があるなら、もう少し待ってくれる?
 頼むから俺を苛めないで」

 すうと、龍星が手を伸ばす。毬は慣れた黒猫の如く自然とその傍に寄った。細い指が頬を撫でる。毬は甘えたように頬をその胸にすりつける。頭を龍星は愛しそうに撫でた。

 どうやら喧嘩は終了したようだ。

 雅之は視線をどこに持っていって良いか決めかねて、酒をあおぐ。
 毬も、ふわりと笑うと席に戻り中断していた食事を再開した。



「雅之、見て!」

 食事終了後、思い出したように毬は懐から風鐸を取り出した。
 カランカランとそれは涼やかな音を立てる。

 雅之はにこりと相好を崩す。

「何、これ」

「龍、説明して?」

 極度の緊張が去って突然睡魔に襲われたのか、甘えた声でそういうと、ためらいもなく毬は龍星の膝に頭を載せた。

 龍星が毬の頭を撫でながら、風鐸について一通りの説明をすませた頃には、毬は眠りに落ちていた。

「雅之、これを軒先にかけてくれないか?」

 雅之は嫌な顔一つせず、風鐸を示された場所へかける。


 それは、時折気まぐれに吹く夏の夜風を捉まえて、カランカランと涼をもたらせた。
< 324 / 463 >

この作品をシェア

pagetop