砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
「困った子だろう?」

 龍星は膝の上で安心しきったように眠る毬を見下ろしながら呟いた。
 二人の間に、今はもう緊張感の欠片もない。
 
 雅之は言葉が浮かばず、押し黙る。

「道剣ですら、この瞳に呑み込まれてあっさり吐いたというのに。
 恐れを知らぬとは、このことだな」

 まるで、懺悔でもするかのような口調に、雅之は顔を龍星に向けた。俯いているその顔からは、いかなる表情も読み取れない。

「まさか同じ術を使ったわけではあるまい?」

 思わず口から出た問いに、龍星は喉の奥で笑い顔を上げた。
 月明かりに映えて、その顔に見慣れている雅之さえ思わず息を呑むほど美しく見えた。
 いっそう、妖艶とも言えるほどだ。

「雅之まで、毬と同じことを言うか?」

「同じこと?」

 雅之は意味が分からず首を捻る。

「毬は呪術を一つ教えてくれという。
 お前は、道剣に使う術と今使ったものは別のものではないかという。

 力はそういう風に簡単に切り分けれらるものではないさ」

「というと?」

 雅之には、龍星の言いたいことが読み取れない。

「たとえばこの徳利に入った酒。
 これはいかなる形にでも分けられる。
 こうやって、お前と俺で分け合って飲むこともできる。
 さしずめ、お前や毬は陰陽の力をそのようなものだとでも思っているのだろう?」

 龍星は、徳利の酒をそれぞれの杯に入れながら楽しそうに笑う。
 さぞかし、愉快なことを発見したかのようだ。

 闇にまぎれて庭に逃げ込んでいた黒猫が、酒の肴の匂いに釣られて戻ってきた。
 眠っている毬から少し離れたところにちょこんと座って、龍星の手をじいっと見つめる。
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