砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 龍星が初めて僅かに見せた優しさで、唯亮にもそれまで黙って座っていた格別に美しい姫が誰であるか分かった。
 龍星が左大臣家の姫と暮らしているという噂は、都では下火になったものの、唯亮の記憶には残っていたのだ。

 帝の正室にそっくりだという噂も耳にしたことがあった。


 正室がここまで、そう、天女を思わせるほどに美しいのであれば、自分の妹に勝ち目は無いな、と、心の中で苦笑を噛み殺す。

「申し訳ありませんが、その件には私は一切関与しておりません。
 父がそのようなことを企んでいるとも知りませんでした」

「では、父君は妹君のために今回のことを企てられたのだろうな」

 龍星がなんてことない口調で、事件の本質を突いた。

「まさか!」

 雅之も唖然とするが、それ以上に声をあげて驚いたのが唯亮だった。
 龍星は一切表情を崩さない。

「当然だろう。
 入内するには、少しでも早いほうがいい」

 龍星はそれ以上言わなかったが、毬は几帳の向こうで息を呑んだ。
 千はとっくに入内しているのに、何故、いまさら左大臣家を狙うのか。

 それは。
 次の入内に狙われているのが毬自身だからに他ならない。
 しかも、右大臣家がそこに危機感を抱くほど、帝は毬の入内を求めていることを露骨に示唆している……ということになるのだろうか。

 あるいは。
 右大臣が、いつか千が妊娠するであろうことを案じての、横暴か。

 毬は不安に思い、ぎゅっと手を握る。

「で、唯亮殿はどちらの味方に?」

 龍星が奈落の底を思わせるような黒い瞳で、真っ直ぐに唯亮の目を覗き込み、それを問う。
 右大臣家の人間を、こちらの味方に取り込むつもりなのか。
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