砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 唯亮は、なんとか意識を保ち、真剣な眼差しで龍星の瞳を見返し、ぎゅっと手を握った。
 唇は緊張のため色をなくしている。

「もちろん、親を裏切ってでも、家は潰さない所存です」

 心の奥からの真っ直ぐな声が、凛と空気を裂く。

「そして、妹君を助けたい、と?」

「はい」

 頷く唯亮は、愚直なほどに真っ直ぐ、言葉を発していた。

 確かに、どことなく雅之を髣髴とさせるところがあるなぁ、などと龍星は心のうちで考えてしまう。

「呪詛返しについては、お役に立てそうも無いが構わないかな?」

「……はい」

 唯亮は、ぐっと唇をかみ締めた後、諦めたように頷いた。

 龍星は、くすりと笑顔を見せる。
 心の内はまったく見せないような、掴みどころのない笑顔だ。

「別に俺は呪詛返しをするつもりはないから。
 気にしなくて結構だ、という意味だ」

 ほっと、唯亮が安堵の息を吐き出した。


 龍星は、御髪を返す。

「東河に行ったら上流から流れてきた、と、言うんだな」

「分かりました」

 聞き分けの良い子供のように、唯亮が素直に頷いた。
 東河は貴布祢明神の下流に当たる。妹君が耳にしても、矛盾を指摘されることはないはずだ。


「悪いが君の行動は見張られていると思ってもらって構わない。
 もっとも、この件が片付くまで、だが」

「それは、構いません。
 今後とも宜しくお願いします」

 深々と唯亮が頭を下げる。

「送ろう」

 話が終わったのを見計らって、来たときと同じように慎重に雅之が唯亮を送っていった。

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