砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 もちろん、龍星が他の誰のことより毬のことを甘やかしていないと言えば嘘になる。

 しかし、それは他の誰もが誰かからされていることで……

 例えば、
 右大臣にとっての和子のような。
 帝にとっての千のような。

 誰かから愛されたからといって、愛されたものは何かから逃げているということにはならない。

 龍星はぎゅっと瞼を閉じ、心の中にある何者かに相談を持ちかける。

……本当は、人を愛する予定は無かった。
  陰陽師として生きて、一人、生を終えるつもりだった。
  少なくとも、彼女に逢うまでは、ずっと。
  慣れた孤独を衣被(きぬかずき)のように身に纏い、決して本当の顔を現すことすらせずに。

  でも、もう、あの頃には戻れないと。
  隠し切れない想いが溢れて、心の底で悲鳴を上げている。

  身分の違いも、妖の事件にこの先も巻き込んでしまうだろうことも。
  身勝手を承知で、受け入れて欲しかった。
  もちろん、自分で出来る限りはその不幸を補えるだけのことはする覚悟だ。


  そう、覚悟は、ある。


 


 次に瞳を開いたとき、そこからは迷いや恐れが一切消えていた。



「普通の公達みたいに通ってあげられなくて申し訳ないけれど、ここで俺と結婚してくれる?」


 顔も見えないまま、耳の後ろで響く冗談とは思えない重たい声音に、毬は目を見開いて言葉を無くす。
 そして、胸の前に回された龍星の腕を、その小さな手でぎゅっと握って、強く頷いた。


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