砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 屈辱、という言葉では足りなかった。
 強いて言えば畏れ、だ。

 自分の妹はどうしてあの男と婚約などしたのだろう、あんな恐ろしい男に身を任せたりするのだろう、と思う。

 あるいは、甘言に騙されているのだろうか。
 脅されているのだろうか。


 今の帝にたてつくと、骨の髄まで凍りそうなほど怖ろしい目に合うと聞いたことがあったけれど。
 どうしてどうして。
 行家にとっては、龍星の方がよほど怖ろしかった。



 生まれてすぐに死相が出ていると言われた自分。
 跡継ぎを亡くしたくない一心だろうか。父は陰陽法師道剣に、命乞いをした。
 10年。
 きっかり10年、子供として楽しむだけの命をもらって、その後はずっと囚われの身。

 道剣の元、この嵐山でしっかり修行に励んだ。
 この2年半――

 厳しい訓練は、地獄のようだったと思っていた。
 事実、血を吐くような日々だった。



 しかし、都に居たあの陰陽師がその黒い瞳からちらりと覗かせた底なしの闇は行家の知っている「地獄」なんてものじゃなかった。
 より深い、怖ろしい世界を既にあの男はその身に纏っていた。

 優雅な都人の風貌をしていながら。
艶やかな笑顔と、人も振り向く美貌を持ち合わせ。

 それなのに。
 確かに修羅を背負っていたのだ――



 例えば、こんな行家などがそれを背負えば一瞬にして潰れてしまいそうなほど、重く暗い修羅を。


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