砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 その大好きな眼差しで懇願されれば、毬だって無碍に嫌とも言えない。
 困り果てた目で、じっと床を見つめる。

 龍星と視線を合わせていたら、どうしても飲み込まれそうになるのだ。

 龍星は毬の顎に手をかけ、そっと上を向かせる。
 柔らかい唇を、ふわりと自分の唇で塞ぎ、その後楽しいことを思いついた少年のような眼差しでにこりと笑う。

「じゃあ、一緒に採りに行こう」

「え?」

 驚く毬の手を引いて、龍星は外出の支度をする。

 近所で見つかる草花を毬と一緒に根こそぎ引き抜く。


 まだ、蝉の鳴き声が残る暑い日だったが、二人はしばらく子供に返ったかのように草抜きを楽しんでいた。




「龍星、こちらに居たか」

 雅之が訪ねてきたのは、それがほとんど終わりかけた頃だった。
 毬は両手を土で汚していたが、雅之を見ると破顔した。

「その子、何処にいたの?」

 雅之はその手に、黒い子猫を抱いていたのだ。

「毬に逢いたいって鳴いてたからつれてきてあげた」

「うわぁ、ありがとう。
 でも、今受け取れないからお屋敷に戻ってからでいい?」

「もちろん……。あの、二人で何やってるの?」

 素朴かつまっとうな雅之の質問に、龍星と毬は視線を絡ませ笑い合う。

 うらやましいほどに仲が良いとは、このことを指すのだろうな、と。
 雅之は微笑ましい心持でそんなことを考えた。

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