砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 その言葉に、焦った賀茂は自然、早口となる。

「取引、などとは失敬な。
 私はあくまでも、何か聞きだせぬことはないかと、問い詰めているだけです」

 龍星は、その答えを聞いてにこり、と、その口許に極上の笑みを浮かべた。

「そうですか。
 そこまで仰るなら結構です。見当違いのことを申しました」

 歩き出した龍星は、ぴたり、と歩みを止め、くるりと賀茂に振り向いた。
 その先ほどまでとは別人のような鋭い視線に、一瞬、安堵の息を吐いていた賀茂の動作が止まる。

 その瞳は、世の中のありとあらゆる殺意と狂気を閉じ込めたような。
 えもいえぬ、闇色に染まっていた。

 同時に、唐突に、龍星の背に、龍とも大蛇ともつかぬおぞましいものの姿が浮かんできてわが目を疑った。
 それは、極限まで腹を減らしてでもいるのだろうか。今にも噛みついてきそうなほどの勢いをもって、賀茂を睨みつけている。


 賀茂の背中が無意識に粟立つ。



「二度と、道剣にはお近づきにならぬよう。
 これが私からの最初で最後の警告です」


 それだけ言うと、くるり、と、まるで舞いでも舞うような軽やかな足取りで龍星が身を翻す。

 賀茂が、ようやく呼吸が出来るようになったと気づいたのは、龍星の姿が完全に見えなくなってからだった。

 こめかみを、冷たい汗が滴っている。


……道剣のヤツ。
  説明しないのではなく、説明できないのか。


 龍星がどうやって道剣の口を割らせたのか。
 それが知りたくて躍起になって道剣の元に通い詰めていた賀茂は、このときようやく、うっすらと。
 陰陽頭の底力の片鱗に、触れたような気がした。

 そして、同時に。
 これ以上捜し求めてはいけない何かがあるのだということに、ようやく気づいたのだった。



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