砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 踵を返した龍星は、早足で御所の外へと向かう。
 陰陽寮に寄らなかったのは、悪い予感がしたからだ。

 事実――
 陰陽寮では、龍星が来たという情報を聞きつけた帝の遣いが、龍星が戻ってくるのを今か今かと待っていた。

「やはり、寮には戻らなかったか」

 御所を出る一歩手前で、検非違使風情の男に親しげに声を掛けられる。
 龍星は、ふぅ、と厭味ったらしく息を吐いた。

「わかっていらっしゃるなら、わざわざ遣いを遣す(よこす)必要はないのでは?」

「まぁ、そういうな。
 面倒なほど手順が多いのが、宮中というものだ」

 にやり、と、快活そうな青年は偉そうな口調で笑って見せた。

「そもそも、移動の準備でお忙しいのでは?」

「俺が何するわけでもないさ」

 分かっているくせに、と、青年は退屈そうに肩をすくめてみせる。

「で、退屈しのぎに私を探しに?」

 いや、と否定しかけた青年はしばらく口を閉じた後

「ああそうだ」

 と、言い直す。

「お前が内裏に来ないとつまらん。
何のために陰陽頭にしたと思ってるんだ」

「……まさか、帝を喜ばせるためだったとは気づきませんでした」

 龍星は悪びれることもなく、にこりと微笑む。


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