砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
「ようやく気づいてくれたなら、何よりだ」

 検非違使風情の青年、こと、お忍び姿の帝も、負けじとにこりと微笑み返した。

 第三者が聞いていたら、背筋が凍りそうなほど冷たい皮肉の応酬だが、遠くからただ見ているだけだと、親しい公達同士の立ち話にしか見えないから怖ろしい。

 二人はあえて、人が居ない方へと足を進める。
 御所の周りには殿上人(てんじょうびと)も多くいるので、人目が気になったからである。

 もっとも。
 たとえ殿上人であろうとも皆が皆、この検非違使を見て帝だと気づくわけではないが。

「それで、そろそろ緑丸の行方を報告してくれる気になったか?」

 帝のほうから切り出してくる。
 清涼殿で、毬ではない毬と言葉を交わして以降、帝はそのことばかりが気になって仕方がなかったのだ。

 龍星は、その言葉に本心から微笑んだ。
 いつもの彼とは異なる、柔らかい笑顔。

「ええ、しばらくしたら本物を連れてこれると想います。
 これで、帝も私の妻に執着するのは止めていただけますね」

「……妻って。
 裳着もまだなのに?」

 帝が思わず素で問い返す。

「そんな瑣末には私はこだわりませんよ。
 面倒な宮中の人とは異なりますから」

 龍星は早くも、いつもの皮肉屋の雰囲気を纏って返す。

「そうか。
 だが、それは緑丸を連れてきてからにしてもらいたいな」

 帝はつまらなそうに肩を竦めてそう言った。
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