砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 謁見(えっけん)の間はいつも以上の緊張感に満ちていた。

 帝の隣を平然と歩いていた龍星も、一応気遣って、謁見の間が近くなるとその一歩後ろへと下がっていく。
 自然と帝と離れ、違う入り口から足を踏み入れた。

 部屋の真ん中には、キツネといわれる右大臣、高階定成(たかしなのさだなり)が覚悟を決めた目で座っている。
 それを取り囲むように、近衛のものが5人ばかり。

 その中に、雅之が居たので龍星の口許は、一瞬、わずかばかり微笑の形に変わる。
 真剣な目で右大臣を睨みつけている雅之は、龍星が日ごろ口にする「良い男」そのままの仕事ぶりだったのだから。

 もちろん、仕事に集中している雅之は、足音もなく龍星が後ろから入ってきたことには気づく術もない。

「和子を、入内させて頂くお心積もりは出来ましたでしょうか?」

 年相応にしわがれた声は、しかし、緊張感の張り巡らされたその部屋に凛と響く。

「先ほどの今で、すぐに出来るものではない」

 御簾の向こうへ戻ってきた帝は苛立ちを隠せぬ口調でそう言った。

「陰陽頭は、どう思う?」

 帝は御簾越しに鋭い視線を飛ばす。
 ざっと、部屋中の視線が、後ろへと向いた。

 足音も気配すら感じさせずそこに立っていた龍星は、いつもの無表情に妖艶な笑みをのせて意味ありげに微笑んだ。

 もちろん、龍星は『畏れながら申し上げます』などというまどろっこしい台詞は、当然のように省略する。

「何事におきましても、左右揃った方が、均衡が取れるというものでございます」

 耳に心地よい響きを持つその声は、説得力に溢れていた。

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