砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 自分で聞いては見たものの、想像以上の忌々しい返事が返ってきて、帝はこほんと喉を鳴らす。

「しかし、同時に災いごとも増えようぞ。
 御台の心をいたずらにさまよわせるようなことがあってはならぬ」

 和子が入内するとなれば、当然、右大臣家の家の者たちが女房として入ってくる。
 そうなれば、今まで左大臣家の者たちで占めていた御台付の女房たちといざかいが起こることは目に見えていた。

「どうしてもと言われるのであれば、うちの息のかかっていない女房たちをそろえる覚悟もございます」

 キツネは、まっすぐ御簾を見てそう言った。

「そういうわけには行かぬだろう。
 お前のところの古参の女房どもが気を悪くする」

「僭越ながら、帝がご心配されるようなことではございません」

 キツネはしわがれた声をいっそう大きくして言った。

 確かに。
 帝がわざわざ右大臣家の女房のことにまで気を配っていたら、政治は回らなくなってしまう。

「陰陽頭――、どう思う?」

 何故か帝は先ほどから、陰陽頭へと話を振る。
 龍星はその瞳を艶やかに煌かせ、陰陽師らしく重みを持った声で答えてみせた。

「このお話が本当に良い縁(えにし)となるのか。
 また、そうであるとしたら日取りはいつが良いのか。
 私自ら占(せん)じて参りましょう」

 では、結果は後ほどお知らせいたします、と。
 龍星はゆっくりと踵を返して、優雅な足取りでそこから出て行った。

……上手いこと逃げやがって。

 帝はもちろん、御簾の向こうで歯噛みしていた。


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